コラム・インタビュー

― えもいわれぬものを包み込む、大気のような音楽。今この一音に想いを込めて ― 尺八演奏家・作詞作曲家 中村仁樹さんインタビュー

2022年2月15日 ライター:盛島さつき

サスティナブルな旅と暮らしのWebマガジン『TABITO Japan』、ついに本オープンを迎えることができました。ここで、記念すべき第1回アーティストインタビューを案内させていただきます。

国内外から熱い注目を浴びる、尺八演奏家・作詞作曲家の中村仁樹さんに貴重なお話を伺いました。

中村さんは、和楽器界の第一線で活躍するアーティストであると同時に、邦楽古典の領域にとどまらず、ジャズ、POPs、エレクトロニクス、クラブミュージックと、まさに変幻自在な演奏スタイルで人気を博しています。

きっと多くの方が、中村さんの尺八を、テレビやラジオなどメディアやCM音楽で一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

またソロ活動以外にも、桜men、蓮-REN-、HANABI、斬月と、様々なユニットでも活躍されています。

今回のアーティストインタビューの機会をいただくだけでも、本当に貴重なことなんですが、なんと1年にわたって、TABITOのコラムもご執筆いただく予定です。

さわやかで甘いルックスもさることながら、人気の所以は、なんといっても圧巻の演奏パフォーマンスに、ダイナミックなオリジナル作品の数々。それだけでも豊かな才能に魅了されるんですが、お話や執筆ではクスっと笑えるユーモアも忘れない、という、まさに多才ぶりが光る中村さんです。そんな中村さんの奥深い魅力を、TABITOの記事でもお届けできたら幸いです。

事前告知の段階から、多くの反響をいただいておりましたが、ようやく記事公開です。

中村さんオリジナル作品のMVもご紹介させていただきます。記事と合わせてお楽しみください。

 

 

中村仁樹さん プロフィール

愛媛県宇和島市出身。宇和島アンバサダー。

蓮-REN-主宰。Shakuhachi Sound -JIN-/HANABI/桜men/斬月メンバー。

17歳で尺八に出会い、その魅力に魅せられ、東京藝術大学音楽学部邦楽科尺八専攻に進む。

第六回尺八新人王決定戦、第三回東京邦楽コンクールなど各種コンクールで優勝。

読売新聞社賞、日本民謡協会賞、宇和島大賞、ベストデビュタントオブザイヤー2018受賞。

春日大社をはじめとする社寺仏閣で100回超の演奏、20回以上の海外公演での演奏を重ねる。

これまでに10枚のアルバムを発表。30枚以上のアルバムに参加。

2017年avexより、崎山つばさwith桜menとして『月花夜』でメジャーデビュー。2020年5月avexより桜men1stアルバム『華の大演舞会』リリース。

尺八本来の響きを生かし、様々なジャンルを自在に行き来するスタイルは多くのファンを魅了してやまない。

 

中村さん作品 『SORAN』

第1回アーティストインタビュー 

―えもいわれぬものを包み込む、大気のような音楽。今この一音に想いを込めて― 尺八演奏家・作詞作曲家 中村仁樹さんインタビュー

 

―中村さんの尺八との出会い。そして演奏家として活躍されるまでの経緯について、お聞かせいただけますか。

中村さん : ギター小僧だった高校生2年生の頃、エレキギターのソロを尺八で吹けたら最高に格好いいだろうなと思い、実家の蔵にあった尺八を手に取ったのがきっかけでした。

 

―ご実家に、蔵があるんですか?

中村さん : はい、浄土宗のお寺が実家なのですが、父が吹いていた尺八をはじめ、いろいろな楽器が眠っていました。

それからご縁あって紹介していただいた尺八の大家の先生に習いに東京に行き、その先生の出す音がなんて瑞々しくて力強いんだろうと感銘をうけ、日本の音楽には全く触れてこなかったことの反動もあり、どんどん尺八の魅力にはまっていきました。

ただ吹きこなすことは想像以上に難しく、初めの頃はすぐ過呼吸で眠くなり、ソファーにダウンしていました。

ヨガに初めてトライした時も、深すぎる呼吸に体がついていかず寝落ちしましたが、それに近いかもしれません。高校3年生になり東京芸術大学を受験しようと思い立ち、それからは血のにじむような練習、というか血をにじませてナンボだなという気持ちで稽古稽古の日々を送り、なんとか芸大受験に合格することができました。

 

―高校2年生で尺八を始められて、そして、東京芸術大学受験を決められたのは、高校3年生ということは、受験まで1年もなかったということですね。尺八というと、素人の想像ですが、御家元のご家系のように、限られた環境の方々が、それこそ幼いころから練習を重ねて、プロの演奏家になられるような、そんなイメージなんですが、中村さんは少し特殊なケースだったんじゃないですか?

中村さん : 『え、17歳から始めたの!?』とよく聞き返されました。というのも晴れて入学して周りを見渡すと、それこそ家元のご子息、ご息女、天才と呼ばれてきたキャリア10年以上の同級生ばかり。 自分は物凄く練習して上手くなった、だれにも負けない!というハリボテの自信とプライドが粉々になりつつも、どうにか追いつき追い越してやろうと、その差を埋めるために必死で練習する日々でした。

もがくようにいろいろな演奏をこなしながら、次第に自分が通用するもの、足りないものがあらわになっていき、その中で自分のオリジナリティー、本当にやりたいことを照らし合わせ、ひたすら自問自答を繰り返しました。卒業してからは作りためていた自分の作曲のCDを発表、出られるコンクールには全てエントリーして自分を鍛え、思い描いていた尺八演奏家としての自分を形にしていきました。

―なんでも大学時代は、演奏の経験を積むことで、逆に大学から大目玉を食らってしまったことがあったようですが。

中村さん : それも一度ではなく二度三度汗。

芸大の邦楽科は根本的に古典の勉強に励む場所なのですが、僕はそもそも古典の世界にいなかったので、大学を出てからはいろいろな音楽とセッションして道を切り拓いていかなければ、演奏の場はないと思っていたんですね。 目立っているくらいじゃないと卒業して活躍できないなと。

それにしても悪目立ちしすぎて先生方にご迷惑をかけたなと、思い返すと要領の悪さに冷や汗しか出ないです。

―それはある意味で、今のご活躍の礎(いしづえ)、でもありますね。

ところで、尺八という楽器。初歩的なこと伺うようで恐縮なんですが、どんな楽器か、教えていただけますか?

中村さん : 大自然の響きそのもののような音を出すことができる楽器です。風のような音から、グッと感情のこもった音まで、表現の幅は世界中見渡しても稀に見るほどです。

真竹という竹を一尺八寸で切り(略して尺八となる)、中の節をくりぬき、指孔をあけ吹き口を作れば、竹林を通りぬける優しい風のような音が鳴る楽器ができます。

自然と深い呼吸ができるので、マインドフルネスにもピッタリです。

簡単に言えば竹を切っただけの楽器ですが、単純なものほど奥が深いというように、演奏会用の楽器には職人さんの技術がたくさん詰まっています。

尺八の歴史は古く、1300年ほど前、奈良時代に遣唐使船に乗って雅楽の楽器として日本に伝来しました。

宮廷音楽に用いられたり、持ち帰った声明というお経のメロディーを確認するために奏され、聖徳太子や一休さんも愛奏していたという文献も見られます。

江戸時代には虚無僧という普化宗の禅僧が「一音成仏」を本懐とし、法器として尺八でお経(本曲)を吹き、全国を托鉢行脚するようになりました。

阿字観という曲も伝えられていますが、自らの息を音で感じ、客観的に精神を統一することができ、弘法大師の阿字観に通ずるところもあると思います。

今では時代に合わせてドレミファソラシドも自在に吹けるように調整された楽器も多く作られるようになり、あらゆる音楽シーンとコラボレーションが行われています。

―単純なものほど、奥が深い。なるほどです。一般的に知られている尺八は、確かに竹をくりぬいた簡単な構造であることを想像し易いですが、その中に詰まった歴史や、関わる人々、また大自然の音から、情感ある音まで幅広く表現できる点などは、なかなか知ることのない尺八の魅力ですね。

ここで中村さんの演奏パフォーマンスについても、ぜひお話聞かせていただきたいのですが、ステージのご様子は、まさに変幻自在で、見ても聴いても魅了されます。ジャンルも、邦楽古典からクラシック、JAZZ 、POPs、はたまたクラブミュージックと、ジャンルを超えた、ボーダーレスな演奏家・作曲家でいらっしゃいますよね。

中村さん : ジャンルを問わず、音楽が大好きなんです。何度聴いてピンとこない曲、でも名曲と言われている、気になってしょうがなくなる、そして演奏してみて初めてその曲の良さがわかる。ということが多々あったので、色々なセッションに応え続け、いつのまにかボーダーレスな演奏スタイルになっていました。自分の世界を尺八がどんどん広げてくれたんですね。

音楽が体にしみこんでくると、音と感情と体の動きがシンクロしはじめます。踊りだしたくなるような感じに近いでしょうか、ROCKやダンスミュージックは体の奥底から熱量の高い激しい音を絞り出すため、くの字に折れ曲がるような動き、のけぞるような姿勢に気づくとなっています。ライブではお客さんがノッてくると演奏もアツくなり、盛り上がった会場と一体化していくような感覚も味わうことが出来ます。

―TABITO Japanは「旅」を基調にしながら、その土地ならではの「食」や「特産品」、「文化」についてをご案内する情報サイトです。特に、「サスティナブルな旅の道先案内人」としての一躍を担えるよう、「旅」を通じ、訪れる人も、迎え入れる場所も土地の人々も、「消費」するのではなく、未来へ育むことのできる、持続可能な旅をテーマに情報を発信していく予定です。中村さんご自身の音楽と「サスティナブルな旅」に共通すると感じられる部分がありましたら、ぜひ教えていただけますか。

中村さん : 世界中にご当地グルメがあるように、民族はずっと昔から伝えられてきたそれぞれの音楽を持っています。その地域ならではの料理は伝統的なお酒などと見事にマリアージュし、香りや味を相乗効果で高め合います。

たとえば老舗の料亭で、懐石料理を食べながらお箏の六段の調べなどを聴くことができれば、とても文化的で贅沢な体験をできたと思うことでしょう。時を超えて伝わってきた「本物」は、「本物」同士セットになるとさらに強力なパワーを発揮します。ただその神髄を理解するとなると、何がルーツにあるのかを肌で感じる必要があると思いますが、旅とはまさにそれを味わうことができる究極の複合体験だと思います。

また現代は旅する文化ともいわれ、世界各国お互いの良いところを取り込み合い、アウトプットしていく時代だと思います。

僕も世界中旅をしていると沢山の出会いからインスピレーションを受け、曲が生まれていきます。大自然の風、土地の空気や匂い、人と会った感動、えもいわれないものを包み込む大気のような曲が、放った一音でその場にいる皆さんと共有できば最高だと思っています。

―中村さんオリジナル楽曲、『raintree-慈雨-』について、少し伺いたいのですが。とあるステージの際に体験したエピソードがあるそうですね。音楽の力、人の心を癒す力について深く考えられるきっかけになられたとか。

「raintree-慈雨-」は、地元である愛媛県の出身の作家・大江健三郎さんの書いた、「雨の木を聴く女たち」にインスピレーションを受けて作った曲です(しとしと平和な雨音と小鳥の声が聖歌のように聞こえてくるような、何気ない静かな曲です)

あるコンサート中ずっと泣いている方がいらっしゃいました。その方は娘さんを何年か前に交通事故で亡くされて、「どうして私はあの日の朝『車に気をつけてね』と言えなかったんだろう」とすごく後悔されていました。「慈雨」を聴いているうちに「娘が『お母さんもう良いよ、ありがとう』と言ってくれている感じがした」とおっしゃって、後日その方と会った際「今はもう悪い夢は見ない。毎日が楽しい」と幸せそうに話してくれました。「……こんなことがあるんだ……!」と激しい衝撃を受けたことを今でも鮮明に思い出します。

サウンドスケープという言葉がありますが、音楽を聴きながら目をつぶるとまるで瞼の裏に心象風景が広がっているような感覚になることがあります。

人によってそれは様々、自分の思い浮かべたいものが思い浮かびます。なので演奏者は曲を表現するというよりも、曲そのものと一体化して、あらゆる操作を排除して、聴く人が自由に思いを巡らせる場を提供するような心持でいた方がいいと思い始めました。

100人に1人自分の演奏をわかってくれればいい、という思いよりも、100人いたら99人に喜んでもらえたほうが自分も得られる喜びが大きい。家でひたすら刀を研ぐようにストイックに鍛錬に励むのもいいけど、沢山の人と話して出会いをパワーにし、人の心が癒されるような曲を作りたいと思うように自分の内面が次第に変化していきました。

中村さん作曲作品   『raintree-慈雨-』

 

―そうだったんですね。お話伺っていると、音楽とつながる、中村さんの人間性の素晴らしさ、魅力の所以を知ることができます。

中村さん : コンサートでは「遊び」の部分を大事にしています。会場が響きすぎると優しめの音、響きにくいと太めの音に、会場やお客さんの様子に合わせてアレンジする必要があります。そうすると家で練習していた100%が当てはまらなくなってしまうため、「完璧に仕上げよう、仕上がった!」いうよりは、「相当出来の良い80%」を用意して、会場にて共演者、お客さんと共に120%に到達させるのがベストなのではないかと思っています。そのためもあり、自作曲は即興を多めに、新鮮さを楽しめるようにしています。

― 面白いですね。中村さんの、即興性やグルーブ感も相まって、ボーダーレスな音楽性につながっているように感じられます。さて中村さんには、来月(3月)から1年にわたり、隔月計6回にてコラムをご執筆いただきます。

TABITOのコラムで、どのようなお話をつづっていただけるのか、もし何かイメージされていることなどありましたら、少しだけお話いただけますか?

中村さん : 通勤、レストラン、喫茶店、あらゆるシーンの中で意外と多くの時間、音楽に触れていることに気付きます。聴いていると仕事がはかどったり、暗い気持ちが慰められたり、明るく前向きになったりするのはなぜでしょう。

古来より音楽は形がないのに心に作用できる不思議なものとして、香りなどと共に尊ばれ、人知を超えた大いなるものと触れるため重用されてきました。

身近にあるのに知らない音楽の秘密、音楽で人生を楽しくするコツ、目から鱗の驚きの事実を、僕の実体験を交えてお話ししていければと思います。

【中村仁樹さん情報】

 バディミッション BOND METEOLIVE

 (オンラインライブ)※ゲスト参加

2022年2月27日(日) 19:00開演

バディミッションBOND METEOLIVE
2022年2月27日(日)昼夜2公演開催 「バディミッション BOND」発売1周年!音楽でよみがえる「BOND(絆)」 バンド&ブラスの生演奏でお届けするオンラインライブ!

バーチャルアーティストKizuna AI(キズナアイ)「Fireworks Remixes」

※the MIRACLE(HANABI Remix)ゲスト参加

キズナアイ、初のリミックスEP「Fireworks Remixes」をリリース | PANORA
バーチャルアーティストのKizuna AI(キズナアイ)は10月22日、初のリミックスEP「Fireworks Remixes」を各種音楽配信サイトにて配信開始した。 9月25日にVRプラットフォーム「Oculus Ve

オフィシャルHP 

尺八・篠笛演奏家【中村仁樹 Masaki Nakamura】 Official Website (masaki-nakamura.com)

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中村仁樹さんのコラムは、5月、7月、9月、11月、1月、3月、各月1日に公開を予定しています。

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