花の入学シーズン。
この時期になると進路相談で「何でもいいから日本一になりたいです」と言って、現実見ろと先生方にボコボコに諭されたことを思い出します。
夢が漠然とし過ぎている上にミュージシャン志望。
なかなかあたり障りのある問題児だったことを自覚しつつ、社会に踏み出す第一歩を思い出したので、今回は日本の古典音楽で重要な「さわり」の音についてご一緒に考えていただけけたらと思います。
「いい音」とは何を指すのでしょうか。
古今東西、朗々として響く音が基準になっていることが多いのですが、しかしこれがスッキリきれい過ぎるといわゆる「さわり」の音には当たりません。
喧噪の「噪」を冠した「噪音」と呼ばれる西洋音楽的ではない、いい意味でのエグ味成分が必要になります。
しっとり深みのあるハスキーボイスに近いでしょうか。酸いも甘いもいろんな人生を経たことを感じさせる声。地歌・民謡・演歌・謡曲にもよく聴かれます。天下の名器ストラディバリウスも、経年による枯れ、粘りと歪みのある音色が魅力とされます。
本来「さわりだけ」というのは、曲中で一番インパクトのある「サビ」の部分を聴かせることを指します。「わびさび」という美意識は、きらびやかなものがエイジング、経年劣化され、にじみ出た本質、さびの渋み、秘した花が心の琴線に触れることをいいます。
安土桃山の豪華絢爛、栄耀栄華、 農民→天下人という下剋上ムーブメントから一転、江戸時代は国家安康、士農工商、質素倹約でノーモア革命。
戦国という骨肉を争う時代は、相次ぐ火山爆発により日照時間が減り、小氷河期が訪れ、飢餓に苦しむ人々が暴力で食料を奪うことが、日常化したことが発端だったと言われます。
刀さびにまみれる争乱の中、平和を求める願いからか大流行した茶の湯は、そもそも喫茶去(きっさこ)という「むずかしい話は抜きにして、まあお茶でも召し上がれ」という言葉からきた禅の文化です。
鎌倉時代のはじめ中国から「薬」としてもたらされた茶の湯は、時の権力者である織田信長や豊臣秀吉にも愛され、彼らお抱えの茶人、千利休により大成されました。
閑寂さの中の奥深かさ、豊かさを愛でる「侘び」の精神は、 谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』においても語られています。
煌びやかな西洋の文化と比べて、日本の魅力の真骨頂は、キラキラとした陽光とモヤモヤした薄暗がりの間の、けじめをぼかしたところに存在し、いわゆる東洋の神秘は「陰」認め受け入れ、陰陽和合した「もののあわれ」にあると言えます。
墨の濃淡で表現する水墨画にも存分にその感性は現れますが、それは尺八の世界観とほぼ一致しています。モノトーンの中に薄いようで濃い墨、近いようで遠い対象、シンプルな空間だからこそ物理の法則がカオスになり感覚がバグを起こし、想像力がかき立てられ、亜空間めいた世界が脳内に出現するようです。
出会いと別れの季節。
新生活への期待と不安で頭の中がいっぱいだったことを懐かしく思い返し、今となっては家族と恩師には感謝しかありません。
いつか一音で全てを頷けてしまえような「さわり」の音で、恩返しができればと夢見ています。
見事に優勝を果たしたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の興奮冷めやらぬ中、今年はバスケットボール、ラグビーのワールドカップも開催されます。
選手達の、全力でお互いのプライドをぶつけ合いプレーする姿には、本当に心を動かされますよね。
ルールがわからなくとも、興奮のるつぼと化した試合をTV画面越しに見ても体を動かしたくなり、いてもたってもいられなくなりますよね。
厳しい冬を越え、ようやくコロナ規制がなくなり、マスクをとって日の光をあびることができるようになりました。 辛い思いをした3年間でしたが、皆さんは「人類史上最悪の1年」というものをご存じでしょうか?
西暦536年、例により世界規模の火山活動で日照時間が激減し、人体のビタミンDが生成されにくくなったことで、あらゆる病気が発生しました。
その最たるものが『ペスト』で、一説によると5000万人近くが亡くなったそうです。
健全な心と体を育むためには、太陽があまりにも重要ということですね。
体はスポーツで作るとすると、心はどうやって育めばよいのでしょうか。
そう思ったとき側にいてくれるのが、想像力を掻き立てて、人生の道標になってくれる、あなたの大好きな「音楽」だと思います。
隣にいていつも自分自身を励まし導いてくれる大切な存在、春はそんな「あなただけの音」を見つけに行きましょう。
あとがき
皆さん一年間のコラムのご購読、誠にありがとうございました。 拙い僕の記事を掲載していただいたTABITOさんには、感謝してもしきれません。 また機会があれば「コラム」に取り組みたいと思うので、皆さんのご意見やご感想を頂けると嬉しいです(ぜひTABITOさんにも) いつか一冊の本に文章をまとめたいな、とも思いますが、そんなのまさかまさか、中村なのでいつになることやら。「またコラムを読みたい!」とか「本が出たら100冊買います!」などと背中を押してくださると嬉しいです笑。
中村仁樹 (なかむら まさき)さんプロフィール
尺八演奏家・作詞作曲家
愛媛県宇和島市出身。宇和島アンバサダー。
所属ユニット:桜men、蓮-REN-、HANABI、斬月
17歳で尺八に出会い、その魅力に魅せられ、東京藝術大学音楽学部邦楽科尺八専攻に進む。
第六回尺八新人王決定戦、第三回東京邦楽コンクール、第二回和洋楽器グループコンテストで優勝を果たす。
読売新聞社賞、日本民謡協会賞受賞、宇和島大賞受賞。長谷検校記念くまもと全国邦楽コンクール優秀賞。長江杯優秀賞。
第14回ベストデビュタントオブザイヤー受賞。
尺八本来の響きを生かし、様々なジャンルを自在に行き来するスタイルは多くのファンを魅了してやまない。
大自然や自己の内なる世界を投影したオリジナル曲は高い評価を得ている。
これまでに10枚のアルバムを発表。30枚以上のアルバムに参加。 サントリーホール・両国国技館・アメリカ大使館・フランス大使館・アイルランド大使館などで招待演奏を行う。
藤原道山、上妻宏光、川井郁子、鳥羽一郎、坂本冬美、水谷千重子、嶋田彩綜、紫舟、ライムグリーンオーケストラ、ルビパ・ド・オーケストラ、とコラボレーション。
増上寺にて仏教成人大学講師を努める。
「しのぶ」ファッションモデル。
2016年初のsoloアルバム「祈り」を発売。NHKなどで放送される。 2017年avexより、崎山つばさwith桜menとして『月花夜』でメジャーデビュー。
2020年5月avexより桜men1stアルバム『華の大演舞会』リリース。
尺八演奏家・作詞作曲家 中村仁樹さん コラムページ
中村仁樹さんインタビュー
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TABITOご案内 ―2023年4月からー
中村仁樹さんには、情報サイト開設のプレオープンのインタビュー記事を皮切りに、約1年半のロングランで大きな力でTABITOを盛り立てていただきました。
海外演奏旅行に伴う飛行機での移動中、ご自身のアルバム制作の真っ只中。さらには、クラウドファンディング中(目標達成!!)と、TABITOコラムにも誠心誠意で取り組んでくださり、ファンの皆様や、TABITO読者に心のこもったメッセージを届けてくださいました。
2023年は、いよいよ、TABITO伝統芸術ナビゲーターとして、さらなるご活躍をいただく準備をしております。桜MENの活動含めて、中村さんのご活躍や音楽は、海外からも熱い視線が注がれています。
日本の伝統芸術の魅力、その奥深さを分かりやすく解説いただき、時に動画(TABITO新設YOUTUBEチャンネル)やDMO(観光地域づくりに関連した企業・団体様)とのコラボ・地域イベント等にも、TABITOに引き続きご協力いただく予定です。
中村仁樹さんや桜MENは、邦楽ジャンルはもちろん、Jazz、POPs、EDMなど様々なスタイルで活躍されています。圧巻のパフォーマンとジャンルの垣根を越えた表現者として、さらには音楽だけでなく、文章や映像を用いて、魅力的な世界を描いています。
TABITOを通じて、中村仁樹さんのこんなパフォーマンス、解説、ライブ映像が見たい、という、リクエストも受け付けます。お問合せより、ぜひお気軽にお声掛けください。
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